「1時間、音楽に耳を傾ける」カゲプロが変えた若者の音楽鑑賞文化

J-Popに波及するプロジェクト文化

この鑑賞方法は、VOCALOIDのキャラクター文化やライトノベル的なプロジェクトを離れ、2010年代後半以降のJ-POPにも見ることができます。

ハチこと米津玄師の3rdアルバム『Bremen』(2015年)では、グリム童話の「ブレーメンの音楽隊」をモチーフに、「音楽を鳴らしながら旅をする」というコンセプトで制作されました。

ボカロPのn-bunaがギタリストとコンポーザーを務めるヨルシカの『だから僕は音楽を辞めた』(2019年)と『エルマ』(2019年)は、n-bunaが書き下ろした物語を軸とする二枚のコンセプト・アルバムであり、前者では青年がエルマへ残した楽曲と手紙、後者では、その手紙に影響を受けたエルマの楽曲と日記が提示され、二枚のアルバムの曲名、歌詞、人物の視点が対になるように構成されています。

『エルマ』の初回限定盤には、エルマが書いた日記帳と写真が付属しており、前作の楽曲や青年の手紙と照合しながら聴くことで、二枚のアルバムにまたがる物語を理解できるよう設計されています。

ボカロPのAyaseがコンポーザーを務めるYOASOBIは、小説を音楽にするユニットとして物語から発想を得て楽曲を制作しており、代表作の「夜に駆ける」(2019)は、星野舞夜の小説『タナトスの誘惑』を原作として制作されています。

「アイドル」(2023年)は、Ayaseが漫画『【推しの子】』から着想を得て制作していたデモを原型とし、正式な主題歌制作に際して、原作者の赤坂アカが書き下ろした小説『45510』をもとに歌詞が完成しました。漫画から非公式の楽曲が生まれ、その楽曲が正式なアニメ主題歌となり、さらに書き下ろし小説との往復によって完成した稀有な例です。

このように、歌詞や映像の外側にある物語を探し、別の媒体を読んだ後に楽曲へ戻るという鑑賞方法が、VOCALOID周辺の文化にとどまらず、2010年代後半から2020年代の日本のポピュラー音楽にも受け継がれています。

まとめ

以前の記事でも述べたように、音楽は時間芸術であるため、作品の中で時間がどのように設計され、鑑賞者がどのように時間を使うのかは、音楽を考えるうえで非常に重要です。

カゲプロは、音楽が一曲単位、あるいはその一部分として消費される傾向が強まっていた時代に、複数の楽曲、歌詞、映像、小説、漫画をつなぎ合わせ、若者をアルバム一枚分の鑑賞へ導きました。

カゲプロおよび、その前後に活動したVOCALOIDのアーティストは、ポピュラー音楽の中で失われつつあった、長時間にわたって一つの作品へ耳を傾ける鑑賞文化を受け継ぎ、それを動画サイトを利用する若者が入りやすい形へ置き換えたのです。

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筆者が制作した1stアルバム『A Humancraft』(2019年)も、コンセプト・アルバムとなっています。VOCALOIDを架空のロボット「Humancraft」に見立て、その興隆と没落、そしてそこからの展開を描いた作品ですので、よかったら聴いてね☆

参考文献・出典

  1. ORICON NEWS(2013)「【オリコン】人気ボカロP・じん、CD&書籍の2冠達成」
    https://www.oricon.co.jp/news/ranking/2025304/
  2. 一般社団法人日本レコード協会(年不詳)「音楽ソフト種類別生産実績推移」
    https://www.riaj.or.jp/data/annual/trends/ms_nm/
  3. 一般社団法人日本レコード協会(2012)『レコード協会70周年記念誌』
    https://adm.riaj.or.jp/sites/default/files/2025-05/70th.pdf
  4. 植田康孝・廣田有里(2014)「音楽市場におけるWTAを実現したAKB48のエコシステム」『江戸川大学紀要』第24号,195–214頁
    https://cir.nii.ac.jp/crid/1050282813197120128
  5. Sanneh, K.(2017)“The Persistence of Prog Rock.” The New Yorker.
    https://www.newyorker.com/magazine/2017/06/19/the-persistence-of-prog-rock
  6. Schulman, M.(2014)“The ‘Ulysses’ of Concept Albums.” The New Yorker.
    https://www.newyorker.com/culture/culture-desk/the-ulysses-of-concept-albums
  7. アンメルツP(2014)「『メカクシティレコーズ』レビュー~目でアルバムを聴く話~」2019年Web再録
    https://www.gcmstyle.com/review-mekakucity-records/
  8. Billboard JAPAN(2020)「YOASOBI、Billboard JAPAN HOT 100 2020年 年間首位記念インタビュー」
    https://www.billboard-japan.com/special/detail/3045
  9. Billboard JAPAN(2023)「YOASOBIが語る『アイドル』誕生秘話、完璧で究極な“アイ”への想い」
    https://www.billboard-japan.com/special/detail/3968