「1時間、音楽に耳を傾ける」カゲプロが変えた若者の音楽鑑賞文化
物語音楽の広がり
「鏡音三大悲劇」と呼ばれる作品群と近い時期に発表された重要作として、トラボルタの「ココロ」(2008年)が挙げられます。
「ココロ」では、孤独な科学者によって作られたロボットが、科学者の死後に「心」を理解し、彼から与えられていた愛情に気付く物語が描かれています。「鏡音三大悲劇」のように複数の楽曲を横断する作品ではありませんが、数分の楽曲の中へ登場人物、時間の経過、出来事、結末を配置し、VOCALOIDを架空の人物の語りとして使用する方法を、非常に分かりやすい形で提示しました。
このように、VOCALOIDへ架空の人物を演じさせ、数分の楽曲の中で一つの物語を展開する文化は、鏡音リン・レンを中心としながら、次第に他のVOCALOIDを使用した作品にも広がっていきました。
cosMo@暴走Pの「初音ミクの暴走」(2007年)、「初音ミクの消失」(2008年)などが収録された1stアルバム『初音ミクの消失』(2010年)では、音声合成ソフトそのものの消失を題材とし、人間が歌うことの難しい高速歌唱を、VOCALOIDにしかできない音楽的表現として使用しながら、そのVOCALOIDが削除され、歌えなくなっていく物語が描かれました。
また、sasakure.UKは、「*ハロー、プラネット。」(2009年)、「ぼくらの16bit戦争」(2009年)などが収録された『ボーカロイドは終末鳥の夢を見るか?』(2010年)において、人間や文明が失われていく終末的な世界を、VOCALOIDが語る形式で描きました。
これに続き、DECO*27の「弱虫モンブラン」(2010年)、「モザイクロール」(2010年)、「愛迷エレジー」(2010年)は、公式には作品同士の連続性が語られていないものの、映像に登場する若い女性の人物像や、楽曲に共通する「愛」「拒絶」「自己否定」といった主題から、楽曲同士の関係を考察する受け取り方も生まれました。
これらが収録された2ndアルバム『愛迷エレジー』(2010年)は、VOCALOID自身の存在やキャラクター性を主題とする作品から離れ、人間同士の「愛」と、その愛によって生じる迷いや痛みを共通のテーマとして描いた作品です。
また、同作ではアニメ『Angel Beats!』に登場する架空バンド「Girls Dead Monster」でボーカルパートを担当したmarinaがゲストボーカルとして起用されるなど、VOCALOIDと人間の歌声を一枚のアルバムに収録したことでも話題を呼びました。