「1時間、音楽に耳を傾ける」カゲプロが変えた若者の音楽鑑賞文化
これらの作品に共通するのは、既に人気を得ていた楽曲を単純に収録したのではなく、イントロ、インタールード、エピローグなどを用いながら、個別の楽曲へ共通する主題や役割を与え、アルバム単位で作品を展開していることです。
この手法は、プログレッシブ・ロックやコンセプト・アルバムにおいて発展した手法でもあります。
※コンセプト・アルバムの歴史を詳しく扱うと本題から脱線してしまうため、カゲプロへつながる鑑賞方法を確認する目的に限って、代表的な作品を簡単に紹介します。
60年代の例:
Sanneh(2017)は、The Beatlesの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』(1967年)などが、映画を見るような没入感を持つ統一的なアルバム制作を後続世代へ促し、その流れの中で、プログレッシブ・ロックの複雑な楽曲やコンセプト・アルバムが発展したと整理しています。
アルバムを、ヒット曲とその他の楽曲を収録した商品ではなく、最初から最後まで一つの作品として聴かせるという考え方は、当時としては画期的なものでした。
70年代の例:
1970年代のプログレッシブ・ロックでは、楽曲、曲順、歌詞カード、ジャケット、物語や共通のコンセプトを組み合わせることで、リスナーにアルバム一枚分の時間を一つの作品へ費やさせる手法が発展しました。
日本の例:
このように、複数の楽曲、曲順、歌詞、人物、物語を一つの作品へまとめ、聴き手にアルバム一枚分の時間を要求する文化は、カゲプロ以前から繰り返し現れていました。
カゲプロが画期的だったのは、この古くから存在した鑑賞方法を、動画サイト、VOCALOID、キャラクター、小説という、2010年代の中高生が入りやすい媒体へ翻訳したことです。
アンメルツP(2014)は、『メカクシティレコーズ』の冒頭の構成について、「シャッフルしないで順番に聴いてほしい」というアルバムからのメッセージを感じると分析し、ブックレットや歌詞カードを見ながら約45分の音源を聴くことで、ドラマやアニメを見ているような体験が得られると評価しています。また、若いファンの中には、この作品が初めて購入したCDアルバムだった人もいるだろうと述べています。
2014年にはテレビアニメ『メカクシティアクターズ』が放送され、オープニング主題歌「daze」をメイリア(GARNiDELiA)、エンディング主題歌「days」を、VOCALOID「IA」の歌声ライブラリのボイスソースでもあるLiaが歌唱しました。
VOCALOIDによって始まった楽曲群が、アルバム、小説、漫画を経て、最終的には人間の歌手が主題歌を歌うテレビアニメへ展開したことで、カゲプロの物語は、動画サイトの一部文化から、より広い若年層が接触する作品へと発展しました。