「1時間、音楽に耳を傾ける」カゲプロが変えた若者の音楽鑑賞文化

カゲプロが登場した時代

カゲプロの功績を考えるためには、まずカゲプロが登場した2011~2013年頃に、ポピュラー音楽がどのように聴かれ、どのように販売されていたのかを整理する必要があります。

日本レコード協会によると、CDアルバムの生産数量は1998年の約4億9240万枚から、2012年には約2億枚を下回る水準まで減少しています。

カゲプロがアルバムを発売した時代背景として、少なくとも1990年代末のように、新しいアーティストを知ったらCDショップへ行き、アルバムを購入して最初から最後まで聴くという行動が以前ほど自明ではなくなっていました。

CDアルバム全盛期におけるJ-Pop作品例:宇多田ヒカル『First Love』(1999)

その一方で、2000年代の日本では、着うたが音楽配信市場を大きく成長させました。日本レコード協会(2022)によると、着うた・着うたフルを中心とする日本の音楽配信市場は、2009年に約910億円へ達しています。着うたでは楽曲全体の構造よりも、サビ、印象的な歌詞、一度聴けば曲名が分かるフレーズなど、数十秒の「聴きどころ」が独立した商品価値を持っていました。

着うた全盛期における楽曲例:

CD市場が縮小する中では、握手会参加券、投票券、生写真、DVD、異なるジャケット、複数仕様など、音源以外の付加価値を組み合わせる販売方法も大きな存在感を持つようになりました。

例えば、植田・廣田(2014)によると、アイドルグループのAKB48による音楽市場における成功について、楽曲だけでなく、握手会、ライブ、ファンによる支援活動、ファン同士の交流などを組み合わせたエコシステムが、大規模な販売実績を支えたと分析しています。

このように、カゲプロがアルバムをヒットさせたのは、2010年代前半が「音楽を聴きたいからCDを買う」という理由だけではパッケージを大量に販売することが難しくなっていた時代でした。