70年代ロックから受け継がれ、アニソン、VOCALOIDをつなぐ曲構成「アジカン・wowaka形式」

VOCALOID における展開

VOCALOID楽曲における同構造の最初期の例の一つとして、supercell「くるくるまーくのすごいやつ」(2008年)で、アジカン形式に近い構造が採用されます。

「くるくるまーくのすごいやつ」が収録された、supercell『supercell』(2009年)

この楽曲では、Aメロの後にイントロのリフがそのまま戻るというより、歌の流れを一度区切る短い器楽的なフレーズが挿入されています。そのため、厳密には「イントロ回帰部」ではなく、次のセクションへつなぐ間奏的な経過句と捉える方が適切です。ただし、Aメロからそのまま次の歌唱部へ進まず、独立した器楽部分を挟んでから再び歌へ戻るという点では、アジカン形式に近い構造を持っています。

一方、「くるくるまーくのすごいやつ」はニコニコ動画へ単独で投稿された楽曲ではなかったため、当時の動画共有文化における同構造の広がりは、別の作品から捉える必要があります。

初期のVOCALOID楽曲において、より大きな影響力を持った例として挙げられるのが、ラマーズP「ぽっぴっぽー」(2008年)です。

同曲では、Aメロの後に冒頭のイントロが明確に回帰しており、アジカン形式がはっきりと確認できます。ニコニコ動画で広く視聴されたことも踏まえると、VOCALOID音楽における先駆的かつ影響力の大きい使用例といえるでしょう。

そして2009年、wowakaはデビュー作「グレーゾーンにて。」をはじめとした複数の作品において、アジカン・wowaka形式を繰り返し使用しました。

wowaka(2015)は、自身に影響を与えたジャンルとして、邦楽のオルタナティブ・ロックを挙げています。この発言から、wowakaはどこかでアジカン形式と出会っていた可能性はかなり高いと考えます。

その後に発表された「裏表ラバーズ」(2009年)、「ローリンガール」(2010年)、「ワールズエンド・ダンスホール」(2010年)は特に広く聴かれ、wowakaを代表する作品となりました。これらの楽曲にもアジカン・wowaka形式が用いられたことで、この構造は多くのVOCALOID楽曲の聴き手や制作者に共有されることになります。

特に「ワールズエンド・ダンスホール」の発表以降、アジカン・wowaka形式を採用したVOCALOID楽曲が相次いで大きな人気を獲得しました。

その代表例が、DECO*27「モザイクロール」(2010年)と「愛迷エレジー」(2010年)です。両曲は広く聴かれ、DECO*27の代表作の一つとなりました。

DECO*27はその後も、「リバーシブル・キャンペーン」(2016年)や「妄想感傷代償連盟」(2016年)などで同形式を使用し、2026年現在に至るまでVOCALOID楽曲の制作を続けています。

また、米津玄師(2019)は、wowakaの音楽について、それまでに聴いたことのない鮮烈な音楽であり、自身も大きな影響を受けたと述べています。

実際に、米津玄師がハチ名義で発表した「Mrs.Pumpkinの滑稽な夢」(2009年)、「マトリョシカ」(2010年)、「パンダヒーロー」(2011年)等にも、アジカン・wowaka形式が用いられています。

このように、2009年から2011年にかけて、同形式を採用した楽曲が相次いで大きな人気を獲得しました。その結果、アジカン・wowaka形式は、VOCALOID音楽におけるスタンダードとして定着したと考えられます。