【VALORANT】温故知新(2)――第1期「チョークをどう越えるか」

First Strike ~ VCT Stage 1 Masters――地域ごとに別の回答が生まれる

2020年12月の『First Strike』、そして2021年3月の『VCT Stage 1 Masters』まで来ると、アビリティを組み合わせてエリアを奪い、突破の瞬間を作るという考え方自体は各地域へ浸透していた。

ただし、その実現方法は地域によってかなり違っていた。

欧州では、デュエリストを減らす方向へ進み、両チーム0デュエリスト構成の試合まで成立していた。特定の一人のエントリー能力へ依存しないことで、チーム全体で攻撃条件を作る方向へ発展していったのである。0デュエリスト構成を推し進めた Ninjas in Pyjamasの Ex6TenZ、FPXの ANGE1 は、ともにCS:GOで活躍していたIGLである。

Ex6TenZ は、CS:S、CS:GO時代から新しい戦術やユーティリティ運用を開発していたことで有名な「軍師」型のIGLであり、VALORANTでもどのような戦術を生み出すのか注目されていた。

一方の ANGE1 も、CS:GO時代には6年間にわたってIGLを務め、8度の公式世界大会に出場。その後もVALORANTで活躍を続け、その後の2022年 VCT Stage 2: Masters Copenhagen では0デュエリスト構成も用いながら、FPXを世界一へ導いている。

この地域風土は、アビリティとラークの影響力が非常に大きくなる、次の[アストラ][ヴァイパー]メタの発展にも関わってくる。


アメリカ地域では、よりデュエリストの突破力と個人判断を利用する方向へ進んだ。2デュエリストを使用するチームが多く、個人の判断と爆発力によってラウンドを動かす傾向が強い。一方で、再現性を高めるため、ラウンド時間を大きく使って相手の反応を待つ攻撃や、逆にラウンド序盤から一気にセットプレーを仕掛ける攻撃も多く見られた。

北米では、100 Thieves がCounter-Strike出身のレジェンド選手を中心にチームを作っていた。その中心にいた nitr0 は、CS:GOで9つのタイトルを獲得し、2019年には世界大会を短期間で4大会制覇した、北米を代表するIGLの一人である。キャリア通算の獲得賞金も100万ドルを超えている。さらにチームメイトの Ethan も、VALORANTへ転向する以前にCS:GOの世界大会を4度制していた。そのEthanは後に、Champions 2023Champions 2025の2度世界一となり、VALORANT史上初めてChampionsを2度制した選手となる。

ブラジルでは、総獲得賞金額150万ドルを超える「ブラジルCounter-Strikeの父」 FalleN が、早くから自国のFPSシーンへ知識を還元していた。その一つが、FalleN自身が設立した Games Academy である。FalleNによるFPS講座は無料で公開され、有志による日本語字幕も用意されたため、当時の日本国内シーンでも教材として知られていた。こうしたCounter-Strikeの文化が根付いていた南米からは、その後 LOUDChampions 2022を制覇。さらに2026年にはアルゼンチンの LeviatánVCT 2026: Stage2 Masters Londonを制し、南米勢はVALORANTでも世界一を経験することになる。

また、Game Changers ChampionshipでもAmericas勢は初年度から継続して上位に入り続けている。2023年以降はAmericas勢が3大会連続で世界一となり、2025年大会ではついにベスト4をAmericas勢が独占したことからも、特定のチームだけでなく、地域全体の競技レベルが底上げされていることがわかる

この地域風土は、撃ち合いの比重が非常に大きくなる[チェンバー]メタ、および[チェンバー]との相性補完に優れた[フェイド]メタ、そしてその後の[ハーバー][ヴァイパー]メタの発展にも関わってくる。


アジア太平洋地域では、VS構成の名残として、システム化されたマップコントロールから、システム化されたセットプレーへ移行する戦い方が発展していった。誰がどのエリアを取り、どのアビリティを使い、それに対する相手の反応を見て次の行動へ移るのか。そうした一連の流れをチーム全体で再現するスタイルである。

このシステム化を重視する地域風土は、特定のエージェントが一方的にメタを支配しない時期や、[ヨル][ネオン][ウェイレイ]等のデュエリストが消去法的・限定的に採用される環境では、特に大きな強みとして現れることになる。

一方、アジアは欧米やブラジルと比べてCounter-Strikeで世界的に活躍した選手やチームが少なく、VALORANT黎明期に過去タイトルから持ち込める知見も相対的に少なかった。そのため、世界大会で結果を残すまでには少し時間がかかることになる。

しかし2023年、VCT Pacific が始まると状況は変わる。それまで別々の地域で競っていたトップチームが一つのリーグに集められ、地域内で継続的に高いレベルの競争が行われるようになった。さらに2024年、VCT China がスタートすると、その初年度からアジア勢は一気に爆発する。Gen.Gが Masters Shanghai 2024 を制したのを皮切りに、アジア勢は世界大会を4大会連続で優勝した。特にEDward Gamingは、Chinaリーグが始まったその年に Champions 2024 を制し、世界王者まで上り詰めている。

欧米やブラジルが、過去タイトルから知識を持ち込んだ地域だとすれば、アジアは VALORANTの歴史の中で自前の知識体系を作り上げた地域 と言える。PacificとChinaが互いに練習し、競争する中で知識を共有し、相乗的に地域全体のレベルを引き上げていった。


当然、各地域の全チームがこの分類へ綺麗に収まるわけではない。欧州王者Acendのように、攻撃的な2デュエリストを使用するチームも存在した。重要なのは、まだ国際大会が存在しなかったため、各地域が導き出した回答のうち、どれが世界的に優れているのか誰にも分からなかったことである。

次に待っていたのは、VCT Stage 2 Masters Reykjavík。

それまで一度も交わることのなかった各地域の「正解」が、初めて直接ぶつかることになる。

と、思っていた……。[アストラ]が登場するまでは。

余談

ここまで読んでもらった方なら何となく感じ取られたかもしれないが、当時の私は、このまま世界大会が開催されればVision Strikersが優勝するのではないかと思っていた。

ヨーロッパでは各エージェントのアビリティ研究がかなり進んでおり、セットプレーの手数も豊富だった。その反面、大量のアビリティを使って有利な状況を作った後、それをどのように撃ち合いの勝利へ変換するのかという部分については洗練されていないように感じていた。言うなれば、アビリティのデパートではあるのだが、品揃えの豊富さに対して、それらを組み合わせて一つの勝ち筋へ仕上げる部分にはまだ粗さが残っていた。

北米はその逆で、TenZ、yayなど、後のVALORANTでも結果を残す強烈なプレイヤーが早い段階から登場していたこともあって、撃ち合いからゲームを組み立てる傾向が強く、アビリティによって撃ち合いそのものを設計する研究が、アジアほど進んでいないように見えていた。ただし北米では[ブリーチ]が地域全体で大きく流行しなかった代わりに、新エージェントの[スカイ]については比較的早い段階から研究が進んでいた。しかし、この時代に求められていたのは「一人で色々できること」よりも、複数人のアビリティを重ね、その瞬間だけ極端に強い状況を作って撃ち合いへ変換することだったため、[ブリーチ]と比較すると、初期の[スカイ]は万能である代わりに、当時のアビリティ合わせという文脈では役割が散っていた。そのため、北米で研究が進んでいたこと自体は興味深かったものの、それがそのまま当時のメタにおける優位性へ繋がるとは私は考えていなかった。

そして韓国を中心とするアジアでは、Vision Strikersの存在によって、この二つがかなり早い段階から結び付いていた。地域内で戦略の循環が繰り返されたことで、アビリティ合わせそのものの練度だけでなく、「合わせたアビリティをどうキルへ変換するか」「相手の合わせをどう外すか」という部分まで、地域全体で早い時期から研究されていたように私には見えていた。少なくとも当時の私の目には、この競争を経験しているアジアが一番VALORANTというゲームを先まで進めているように映っていたのである。

なので正直なところ、2021年にそのまま各地域の王者を集めた世界大会が開催されていたなら、アジア王者Vision Strikersが初代世界王者になるだろうと勝手に予想していた。

まあ、そうなることはなかったのである。

参考文献・出典

RomanL(2021)“Valorant Pro Korean Meta Analysis”, Mobalytics.
https://mobalytics.gg/blog/valorant/valorant-pro-korean-meta-analysis/

RomanL(2021)“VALORANT NA Stage 1 Masters: Meta Analysis and Expert Insights”, Mobalytics.
https://mobalytics.gg/blog/valorant/valorant-na-stage-1-masters-meta-analysis-expert-insights/