【VALORANT】温故知新(2)――第1期「チョークをどう越えるか」

戦略の循環

続くアジア大会A.W EXTREME MASTERS Asia Invitationalで、その先駆者であるVision Strikersはさらに別の姿を見せる。

まず、セットプレーが強力である以上、防衛側はサイト中で待ち受けるだけでは対応しづらく、セットプレーを組み立てられるより前のエリアで止めたり、前目の配置を見せることで攻撃側にリソースを消費させる必要がある。

◆防衛側は[ジェット][オーメン]によって前目の配置を形成。攻撃側のセットプレーに対し、前目に組んだクロスファイアで殲滅勝利した例。

しかし、攻撃側にはラッシュという選択肢もあるため、防衛側は常に初動からの高速な侵攻を警戒する必要がある。

◆防衛側[ジェット]は初動からサイトのかなり後方に位置し、序盤からのサイト攻めに対して、初動からチョークポイントでクロスファイアを形成している例。

サイト後方へ十分な人数を残し、セットプレーを受け止められる配置を敷けばラッシュへの耐性は高くなるが、その状態を続ければ前方のエリアから得られる情報が減り、攻撃側がどこまで侵攻しているのか分からないまま時間が経過することになる。

◆防衛側はAラッシュを警戒していたものの、攻撃側の本命はB攻め。十分な情報を取得できていなかったため、攻撃側[ジェット]のサイト侵入を許し、[セージ]のスロウオーブを返すもB単独守りの[オーメン]がデスし、そのままBサイトを取得されてしまった例。

そこで防衛側は、ある程度ラッシュを警戒しながらも、どこかでは前目のエリアへポジショニングしたり、複数人でプッシュしたりして、リスクを負いながらエリアや情報を取りに行く必要がある。

ところが、防衛側が情報を取るために前へ出れば、そこへアビリティを合わせたウェット&ファストなエリア取りをぶつけることで、前方の選手を強襲することができる。防衛側が強く取っているエリアの情報だけを取得できたなら、そのエリアを回避して攻めることも可能である。

◆攻撃側は初動でAシャワーの取得には失敗するものの、シャワーに防衛側が2人いるという情報を取得。その情報を基にA側左側のエリア一帯から防衛側スポーンまでを広く取得。ローテーションカットや設置後の[ジェット]ラークによって防衛側の守備構造を崩した。

一方で、防衛側もやられっぱなしではない。特に[ブリーチ]は防衛においてもアビリティの汎用性および性能が高く、ローテーションからの「シャーペン」性能が非常に高かった。別サイトからでも超遠距離のフォルトラインによって進行中の敵を妨害でき、ローテーションが完了すればフラッシュポイントを使ってサイト内へピークする味方を補助できる。スパイク設置のタイミングが分かれば、アフターショックやローリングサンダーによって設置そのものを遅延させることも可能。このように、[ブリーチ]は最初から本命サイトに配置されていなくても、攻撃側のアクションを確認してからローテーションし、サイト防衛へ途中参加できるため、ラッシュ・セットプレーへの対応力そのものが高いエージェントだった。そのため、[ブリーチ]の研究が進み、防衛側もローテーションを前提としてアビリティを合わせるようになると、攻撃側のウェットな戦術が一方的に刺さるわけではなくなっていく。

◆既出例と同様に、攻撃側はAシャワーを避けてAショートからの一本攻めを選択。しかし、防衛側の[ブリーチ]ローリングサンダーを始めとしたアビリティ返しでセットプレーを止められた例。

◆【補足】シャーペンとは

◆攻撃側がウェットなエリア確保によって、防衛側をA側(Bサイトより右側)に3人寄せた状況からC攻めを決行。Cを単独で守っていた[サイファー]は初動キルされるものの、ローテーション→シャーペンしてきた[ブリーチ][レイズ]によって設置を阻止され、そのまま防衛側が殲滅勝利する例。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          

また、[ソーヴァ]の適性が低いSplitでは[セージ]が採用され、スロウオーブによる遅延に加え、バリアオーブを使った「ペンギン」によって、敵が炊いたスモークの上など通常では成立しない射線からカバーを行うこともできたため、ラッシュ・セットプレーに対して非常に相性がよかった。

◆「ペンギン」からの「シャーペン」によって、Bラッシュをカバーした例。
※余談として、防衛側[オーメン]のポジションは、初動ラッシュを警戒した配置にもなっている。

そこで攻撃側には、防衛側にローテーションされる前にサイトを取得したり、そのまま勝負を決めたりするため、ドライやスローなコンタクト的な攻め方であったり、空いたエリアを利用したフェイクやラークが求められるようになる。

◆防衛側は[ブリーチ][ソーヴァ]ULTのような、シャーペン・リテイク性能の高いULTを保持しているため、片方を最初からリテイク前提で空ける等、初動から極端な配置(後述する「結論配置」)を採用している可能性が考えられる。そのため攻撃側は、サイトが完全に空いているのであればそのまま無料で取得したり、逆にサイト内に防衛側が残っていることを確認できた場合は、ローテーションやシャーペンの準備を整えられる前にその守備人数を殲滅するため、ドライ&スローで侵攻する。このラウンドでは、ジグルピークによってBサイト侵入口を監視していた防衛側[ソーヴァ]を即座に倒したことで、防衛側へ十分な対応時間を与えないまま戦闘を開始。そのまま3人で守られていたBサイトを短時間で攻略し、サイトを取得している。

◆攻撃側がラッシュフェイク+複数キルによって防衛側のローテーションを強制し、その隙に逆サイドで安全にオープン設置を行った。

これに対して防衛側も、[ブリーチ]を中心とした高速ローテーションや「シャーペン」だけに頼らない守り方を練り上げる必要があった。

まずドライへの対策として、単独で前線を押し上げてくる相手を止めるためにオペレーターの価値が高まり、同時に、複数人とアビリティを合わせてサイトより前の経路で敵を殲滅するカウンターも強くなる。そして、これらを初動からマップ全体で行う「結論配置」が、ドライ全般への強力なカウンターとなった。

※「結論配置」とは、どのサイトへ攻められても初動から勝利までのプランがある程度固まっている配置のことである。そのため、防衛側は前目へ出て情報を取得するリスクを抑えつつ、あとは攻撃側が防衛側の待ち受けているチョークへ侵入してくるのを待つだけでよく、比較的リスクの低い守り方でもあった。

HavenにおけるAオペレーター&Bカウンターの配置

◆攻撃側のAフェイクBに対し、Bオペレーターで本命攻めを殲滅した例

◆Aオペレーター&Bカウンターの「結論配置」

余談だが、「VSプッシュ」も「結論配置」の一種である。

◆「VS結論配置」の例

(後日追加)

また、後年に[キルジョイ]が登場すると、ロックダウンによってサイトリテイクが容易になったこともあり、サイトそのものを捨てて別のエリアをロームし、侵攻してきた攻撃側へカウンターを仕掛けるような守り方も広く見られるようになる。

◆「VS結論配置 with キルジョイULT」の例

(後日追加)

さらに、防衛側が一度明け渡したエリアについても、[ブリーチ]のフラッシュポイントを使って[ジェット]などをリピークさせることで、再びエリアを塗り返すことができる。[ブリーチ]は索敵エージェントではないため、エリアの安全を確認するにはフィジカルでのクリアリングが必要になるというデメリットはあるが、そのままラークそのものを破壊できる点が、当時のドライ&スローな攻めへの対策として非常に相性が良かった。

◆リピークの例

(後日追加)

これらの防衛側戦術を受け、攻撃側はリスクを最小限に抑えるため、アビリティと時間を少しずつ、かつ最大限に使いながらエリアを取得する必要があり、ラッシュのようなハイリスクな戦術は、アンチエコ or エコ時などごく限られた場面でしか使われなくなった。

こうなると、攻撃側もドライやスローを続ければ安全というわけではない。防衛側のオペレーター、カウンター、リピーク、VSプッシュによって、アビリティを使わずに前線を押し上げる行為そのものにリスクが発生するからである。そのリスクを最小限に抑えるのであれば、攻撃側はラウンド開始直後に「オフショアパラディング」を行い、防衛側の初動アクションが終わるまで一度時間を使うことになる。そして安全が確認されてから徐々にエリアを取り返していく。

◆Havenでのマップコントロールの例
初動は「オフショアパラディング」を行い、防衛側が強いアクションを仕掛けてこないこと、加えて前目のエリアを積極的に確保しているわけでもないことを確認する。そのまま不用意にエリアを取りに行かず、残り時間1:00付近になってから初めて、エリアに対してウェットにアクションをかける(通称「40秒ルール」)。その結果、ガレージを防衛側が強く守っていることが判明したため、相対的に人数が少ないと判断できるA側へ切り替え、今度はドライ&スローで侵攻(敢えてMagiskをさせて薄いサイトに侵攻する。通称「敢えMagi」)。相手の配置を把握したうえで薄いエリアを選択し、最終的にはAサイトで爆破勝利した例である。

ただし、この方法にも当然代償がある。初動で時間を消費し、その後のエリア取りでもアビリティを使えば、サイトへ攻め込む頃には残り時間が少なく、アビリティも減っており、マップ上で確保できているエリアも狭い。防衛側から見れば、攻撃側が使用したアビリティや確保しているエリアから、本命候補をかなり限定できるようになる。その結果、攻撃側は本命を早い段階で特定され、防衛側に十分なローテーションを許した状態から、セットプレーを行わなければならなくなる。ここで再び「相手が寄るからドライが成立する」という循環が成立する。

このように、当時のVision Strikersが作ったメタは、特定のセットプレーを一つ覚えれば成立するものではなかった。相手が一つの戦い方へ対策した瞬間、その対策によって生じた別の弱点を、別の戦術で攻撃できる構造になっていたのである。そして、この「別の戦術」の手札を増やし、且つラウンド中に相手の対応を見ながら臨機応変に選択するためにも、結局VS構成である必要があった。