【VALORANT】温故知新(2)――第1期「チョークをどう越えるか」

これの続き

第1期:国際大会が存在しなかった時代

本記事では、2020年6月の正式リリースから、2021年3月のVCT Stage 1 MastersまでをVALORANTの「第1期」として扱う。

2020年に開催された初の公式大会First Strike、そしてVCT 2021: Stage 1 Mastersまでは、新型コロナウイルスの影響もあり各地域で独立して開催された。つまり第1期は、各国・各地域がそれぞれ自分たちの環境の中だけでVALORANTはどう戦えば強いのかを研究していた時代である。

私が第1期における最も大きなテーマだったと考えているのは、攻撃側はどうやってチョークポイントを越えるのかという問題である。

実装済[ジェット][フェニックス][レイズ][ソーヴァ][ブリーチ][サイファー][セージ][ブリムストーン][オーメン][ヴァイパー]

新実装[レイナ][キルジョイ][スカイ][ヨル]

上方修正[ブリーチ][ヴァイパー][ブリムストーン]

下方修正[ジェット][レイズ][セージ][サイファー][オーメン]

調整[レイナ][ヨル][キルジョイ]

VALORANT最初の問題――チョークを越えられない

VALORANTしかプレイしたことがない人には信じ難いかもしれないが、2012年にリリースされた大人気爆破FPS『Counter-Strike: Global Offensive(CS:GO)』では、1人につきフラッシュバンを2個所持できるため、5人合わせれば理論上は最大10個のフラッシュを持つことができる。

ほかにも1人につきスモークグレネードを1個、焼夷グレネードを1個持てるため、VALORANTでかなり雑に例えるなら、5人全員が[ブリムストーン][KAY/O]を兼任できるようなものである。

射線をスモークで切り、モロトフで強いポジションから敵を追い出し、フラッシュを連続して投げながら進入する。この大量の投げ物は、攻撃側がチョークポイントを突破する上で非常に都合が良かった。

CS:GOでの例を挙げる。
これはDust 2というマップのBセットを、先頭の選手から見たPOVである。

ラウンド時間1:30以降、視界の左側でバンバン鳴っているのがフラッシュの炸裂音である。Bサイトへ侵入する際、計7個のフラッシュが継続的に炸裂している。

余談だが、ちなみに視点主は、後にVCJ 2024: Split 2でMURASH GAMINGの一員としてベスト4を達成したmillion氏である。

敵側には、同じくmillion氏と同時期にMURASH GAMINGでコーチとして活動していたshoushi氏と、Overwatch、PUBG、CS:GOの競技経験を経て、後にZETA DIVISION ACADEMYのコーチとして活動するkreamer氏がいる。

ほかの例も挙げる。

これは同じくDust 2のAロングというエリアに対するラッシュを、先頭の選手から見たPOVである。

こちらでは、サイトへ侵入するためではなく、Aロングというエリアを取得するだけでフラッシュを6個使用している。

ちなみに視点主は、後にVALORANT Masters Reykjavík 2022で世界3位となるZETA DIVISIONのLaz氏。チームメイトには同じくcrow氏、後にMURASH GAMINGで活動するReita氏等がおり、敵側にはCrazy Raccoon、FENNELなどで複数回日本一を経験するneth氏がいる。

このように、VALORANTで結果を残した選手たちは、過去タイトルの時点で既に一級の競技活動を行っていた。彼らがVALORANTへ持ち込んだのは、過去の爆破FPSで何年もかけて蓄積されてきた知識そのものである。そして現在、当時VALORANTへその知識を持ち込んだ世代の多くは、既に第一線を退いている。こうした知識が文章や映像として体系的に残されなければ、選手の引退と同時に、過去タイトルから受け継がれてきた爆破FPSの知恵まで途切れてしまう。

親記事で「世代が変わるたびに知識をリセットする必要はない」と述べたのは、まさにこういうことである。

閑話休題。

VALORANTでは、こういった大量のフラッシュを断続的に使用してチョークを突破する、旧来の爆破FPSの戦術が成立しない。

フラッシュを持つエージェントを採用したとしても、CS:GOのようにチーム全体で最大10個を使用できるわけではない。

しかも防衛側には、当時は設置者が死亡しても機能し続けたサイファーのトラップワイヤーや、キルジョイのナノスワームなどをチョーク周辺へ設置できる。単純にスモークを焚いて入口から5人で走り込めば突破できるほど、ゲームシステムとして素直には作られていなかった。

First Strike直前のPatch 1.11でも、Riot GamesのLead Character DesignerであるMax Grossmanは、攻撃側が防御を固めたディフェンダーの守りを突破することに非常に苦戦しているという傾向を認識していると説明している。

実際にFirst Strike: Japanでは、防衛側のラウンド勝率は55%を記録している。 少なくとも当時の競技シーンにおいて、チョークを突破する攻撃側が大きな課題を抱えていたことは、開発側の認識と実際の大会結果の双方から確認できる。第1期のVALORANTは、この防衛有利なゲームを攻撃側がどう攻略するのか、その回答を探すところから始まった。

リリース~First Strike――システム化されたセットプレーの発展

2020年9月、Patch 1.07で[ブリーチ]のフラッシュポイントは2回から3回へ増加した。Riot Gamesはこの変更について、ブリーチを「攻撃時のエントリーと敵ユーティリティの突破」に使えるエージェントにしたいと明記している。

ここから急速に発展したのが、[ブリーチ]フォルトライン/フラッシュポイント+[ソーヴァ]リコンボルト → [ジェット]テイルウインド強襲という組み合わせである。

その象徴となったのが、アジア大会AfreecaTV Asia ShowdownでVision Strikersが見せたセットプレーだった。Vision Strikersは当時の日本王者Absolute JUPITER(後のZETA DIVISION)に対して、圧倒的な制圧力を見せた。

特に、以下のラウンドで見られるようなアビリティ合わせは衝撃的だった。

この[ジェット][ブリーチ][ソーヴァ][オーメン]or[ブリムストーン][サイファー]or[キルジョイ]という構成は、普及させたVision Strikersの名にちなんで「VS構成」と呼ばれるようになった。また、防衛側で複数人がアビリティを合わせながら前方へ出る逆プッシュについても、当時の日本では「VS」と呼ばれるようになった。(後に「Pacificプッシュ」と呼ばれる防衛側の戦術に発展する)

従来の爆破FPSでは、チョークを越える選手は入口から順番に身体を晒すため、防衛側は入口へ照準を置いて待つことができた。

VALORANTでは、入口周辺をフラッシュやスタンで一時的に機能停止させ、その瞬間にジェットが入口を通過し、サイト内部まで一気に移動する。

すると防衛側は、

入口から続いてくる4人を見るのか。

既にサイト内部へ侵入したジェットを見るのか。

ソーヴァのリコンボルトなど、索敵アビリティを壊すのか。

という複数の処理を同時に要求される。

攻撃側がこの方法でチョークを破壊できるようになると、防衛側の戦術も変化した。

サイト奥で待っているだけでは、フラッシュ、スタン、索敵、ブリンクエントリーをまとめて受けてしまう。そのため、相手がセットアップを完成させる前にサイトより前へ出て戦い、エリアやユーティリティを削るという防衛が増えていった。

攻撃側のチョーク突破が発展した結果、防衛側もサイト内で待っているだけでは成立しなくなったのである。

極めつけは、その後の日本大会 EDION Valorant Cupである。同大会ではブリーチの採用率が95%に達した。8月のGALLERIA GLOBAL CHALLENGE 2020は15%A.W. EXTREME MASTERS Pro Invitationalは32%Mildom Mastersは51%だったため、短期間で爆発的に普及したことが分かる。そしてAbsolute JUPITERがVS構成に敗北したことで、その戦い方は日本でも最大のブームとなった。

ところが、続くアジア大会A.W EXTREME MASTERS Asia Invitationalで、その先駆者であるVision Strikersはさらに別の姿を見せる。

セットプレーだけに依存せず、古来の爆破FPSに見られるマクロ的な戦い方や、ユーティリティを大量投入しないドライな戦術まで使い分け、Absolute JUPITERをはじめとしたアジア勢を蹂躙した。

これはVS構成が「アビリティを全部合わせて突っ込む構成」ではなく、セットプレーを強力な選択肢として持ちながら、それ以外の勝ち方も使える構成だったことを示している。

First Strike~VCT Stage 1――地域ごとに別の回答が生まれる

2020年12月のFirst Strike、そして2021年3月のVCT Stage 1 Mastersまで来ると、アビリティを組み合わせてエリアを奪い、突破の瞬間を作るという考え方自体は各地域へ浸透していた。

ただし、その実現方法は地域によってかなり違っていた。

欧州では、デュエリストを減らす方向へ進み、両チーム0デュエリスト構成の試合まで成立していた。特定の一人のエントリー能力へ依存しないことで、チーム全体で攻撃条件を作る方向へ発展していったのである。0デュエリスト構成を推し進めた Ninjas in PyjamasのEx6TenZ、FPXの ANGE1 は、ともにCS:GOで活躍していたIGLである。

Ex6TenZ は、CS:S、CS:GO時代から新しい戦術やユーティリティ運用を開発していたことで有名な「軍師」型のIGLであり、VALORANTでもどのような戦術を生み出すのか注目されていた。

一方の ANGE1 も、CS:GO時代には6年間にわたってIGLを務め、8度の公式世界大会に出場。その後もVALORANTで活躍を続け、2022年の VCT Stage 2: Masters Copenhagen では0デュエリスト構成も用いながら、FPXを世界一へ導いている。

この地域風土は、アビリティとラークの影響力が非常に大きくなる、次の[アストラ][ヴァイパー]メタの発展にも関わってくる。

アメリカ地域では、よりデュエリストの突破力と個人判断を利用する方向へ進んだ。2デュエリストを使用するチームが多く、個人の判断と爆発力によってラウンドを動かす傾向が強い。一方で、再現性を高めるため、ラウンド時間を大きく使って相手の反応を待つ攻撃や、逆にラウンド序盤から一気にセットプレーを仕掛ける攻撃も多く見られた。

北米では、100 Thieves がCounter-Strike出身のレジェンド選手を中心にチームを作っていた。その中心にいた nitr0 は、CS:GOで9つのタイトルを獲得し、2019年には世界大会を短期間で4大会制覇した、北米を代表するIGLの一人である。キャリア通算の獲得賞金も100万ドルを超えている。さらにチームメイトの Ethan も、VALORANTへ転向する以前にCS:GOの世界大会を4度制していた。そのEthanは後に、Champions 2023Champions 2025の2度世界一となり、VALORANT史上初めてChampionsを2度制した選手となる。

ブラジルでは、総獲得賞金額150万ドルを超える「ブラジルCounter-Strikeの父」 FalleN が、早くから自国のFPSシーンへ知識を還元していた。その一つが、FalleN自身が設立した Games Academy である。FalleNによるFPS講座は無料で公開され、有志による日本語字幕も用意されたため、当時の日本国内シーンでも教材として知られていた。こうしたCounter-Strikeの文化が根付いていた南米からは、その後 LOUDChampions 2022を制覇。さらに2026年にはアルゼンチンの LeviatánVCT 2026: Stage2 Masters Londonを制し、南米勢はVALORANTでも世界一を経験することになる。

また、Game Changers ChampionshipでもAmericas勢は初年度から継続して上位に入り続けている。2023年以降はAmericas勢が3大会連続で世界一となり、2025年大会ではついにベスト4をAmericas勢が独占したことからも、特定のチームだけでなく、地域全体の競技レベルが底上げされていることがわかる

この地域風土は、撃ち合いの比重が非常に大きくなる[チェンバー]メタ、および[チェンバー]との相性補完に優れた[フェイド]メタ、そしてその後の[ハーバー][ヴァイパー]メタの発展にも関わってくる。

アジア太平洋地域では、VS構成の名残として、システム化されたマップコントロールから、システム化されたセットプレーへ移行する戦い方が発展していった。誰がどのエリアを取り、どのアビリティを使い、それに対する相手の反応を見て次の行動へ移るのか。そうした一連の流れをチーム全体で再現するスタイルである。

このシステム化を重視する地域風土は、特定のエージェントが一方的にメタを支配しない時期や、[ヨル][ネオン][ウェイレイ]等のデュエリストが消去法的・限定的に採用される環境では、特に大きな強みとして現れることになる。

一方、アジアは欧米やブラジルと比べてCounter-Strikeで世界的に活躍した選手やチームが少なく、VALORANT黎明期に過去タイトルから持ち込める知見も相対的に少なかった。そのため、世界大会で結果を残すまでには少し時間がかかることになる。

しかし2023年、VCT Pacific が始まると状況は変わる。それまで別々の地域で競っていたトップチームが一つのリーグに集められ、地域内で継続的に高いレベルの競争が行われるようになった。さらに2024年、VCT China がスタートすると、その初年度からアジア勢は一気に爆発する。Gen.Gが Masters Shanghai 2024 を制したのを皮切りに、アジア勢は世界大会を4大会連続で優勝した。特にEDGは、Chinaリーグが始まったその年に Champions 2024 を制し、世界王者まで上り詰めている。

欧米やブラジルが、過去タイトルから知識を持ち込んだ地域だとすれば、アジアは VALORANTの歴史の中で自前の知識体系を作り上げた地域 と言える。PacificとChinaが互いに練習し、競争する中で知識を共有し、相乗的に地域全体のレベルを引き上げていった。

当然、各地域の全チームがこの分類へ綺麗に収まるわけではない。欧州王者Acendのように、攻撃的な2デュエリストを使用するチームも存在した。重要なのは、まだ国際大会が存在しなかったため、各地域が導き出した回答のうち、どれが世界的に優れているのか誰にも分からなかったことである。

次に待っていたのは、VCT Stage 2 Masters Reykjavík。

それまで一度も交わることのなかった各地域の「正解」が、初めて直接ぶつかることになる。

と、思っていた……。[アストラ]が登場するまでは。

参考文献・出典

RomanL(2021)“Valorant Pro Korean Meta Analysis”, Mobalytics.
https://mobalytics.gg/blog/valorant/valorant-pro-korean-meta-analysis/

RomanL(2021)“VALORANT NA Stage 1 Masters: Meta Analysis and Expert Insights”, Mobalytics.
https://mobalytics.gg/blog/valorant/valorant-na-stage-1-masters-meta-analysis-expert-insights/