音楽は「流れ」でできている――音楽を構造で見る

これの続き

導入

音楽を聴いていて、「最後のサビが一番よかった」「静かな部分があったから、その後の盛り上がりが強く感じられた」と思った経験はないでしょうか。

このとき私たちが受け取っているのは、メロディやコードだけではなく、それらがどのような順番で現れたのかという曲全体の流れです。

私は、音楽を考察する際には、まず楽曲の構造を見ることが重要だと考えています。

その理由は、音楽が時間芸術だからです。

音楽は時間の中で展開する

石桁(1949)は、音楽を時間芸術の代表と位置付け、その本質は時間的な構成美にあると主張しています。

絵画・彫刻・写真は、作品全体を一度に視野へ入れて鑑賞できますが、音楽・映画・ゲームは時間の経過に沿って展開するため、最初から最後までを一度に鑑賞・体験することができません。

私たちはイントロ、歌、サビという順番で少しずつ作品を受け取り、それまでに聴いた音を記憶しながら、次の音を聴いています。

CameronとGrahn(2020)も、音楽は本質的に時間的な経験であり、その時間構造が鑑賞者の感情や美的反応に関わると述べています。

同じ音でも、置かれた場所で印象が変わる

同じサビであっても、曲の最初に現れる場合と、静かな場面を経て最後に現れる場合では、受け取る印象が異なります。

最後のサビが強く感じられるのは、サビ自体が優れているからだけではなく、そこへ至るまでの流れがあるからです。

TillmannとBigand(2004)は、鑑賞者が個々の音だけでなく、その背後にある全体的な構造を捉えながら、次に起こる音楽的な出来事を予測していると論じています。

つまり音楽では、何が鳴っているのかだけでなく、それがいつ、何の後に鳴ったのかが重要になります。

構造を見るということ

文部科学省(2018)は、音楽の構造について、音楽を形づくる要素同士の関係だけでなく、楽曲全体がどのように構成され、展開しているのかを含むものと説明しています。

ここでいう構造とは、難しい音楽理論だけを指すものではありません。

イントロ、Aメロ、サビなどがどのような順番で並び、何が繰り返され、どこで変化するのかという、曲全体の組み立てです。

このような構造を一定の型として整理したものが、楽式です。

結論

音楽は、時間の流れに沿って少しずつ全体像を示す芸術です。

そのため、メロディやコードを個別に調べるだけではなく、それらが曲のどこに置かれ、どのような順番で現れたのかを見る必要があります。

構造を分析することで、「どの部分がよかったのか」だけではなく、なぜ、その部分がそこで効果を生んだのかまで考えられるようになります。

次回以降の記事では、具体的にどのような楽式が存在するのかを見ていきます。

参考文献・出典

  1. 石桁真礼生(1949)『新版 楽式論』音楽之友社、1頁。
  2. Cameron, Daniel J., and Jessica A. Grahn(2020)“Perception of Rhythm.” In The Cambridge Companion to Rhythm, Cambridge University Press, pp.20–38.
    https://doi.org/10.1017/9781108631730.004
  3. Tillmann, Barbara, and Emmanuel Bigand(2004)“The Relative Importance of Local and Global Structures in Music Perception.” The Journal of Aesthetics and Art Criticism, 62(2), pp.211–222.
    https://doi.org/10.1111/j.1540-594X.2004.00153.x
  4. 文部科学省(2018)『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 芸術編』。
    https://www.mext.go.jp/content/1407073_08_2.pdf