【VALORANT】温故知新(1)――メタの歴史を残す
導入
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という格言がある。
これは爆破FPSにも、そのまま当てはまると考える。
爆破FPSは、理論上は相手より高い確率でラウンドを取得し続ければ勝てるゲームである。したがって、絶対に勝てる一つの戦術を探すより、様々な勝ち方を知り、その中から相手に応じて選択できることの方が重要になる。
例:セットプレーで勝つ、ラッシュで勝つ、マップを広く使って相手を動かす、フェイクを仕掛ける、ラークを通す等
これらを全て自分自身の経験から学ぼうとすれば、当然ながら時間がかかる。しかし爆破FPSには過去タイトルからVALORANTへ続く長い競技の歴史があり、その中で先人たちが既に膨大な試行錯誤を行っている。
ならば、先に歴史を学べばいい。
過去にどのような勝ち方が存在し、なぜそれが強く、どのような対策によって淘汰されてきたのかを知れば、自分がまだ経験していない状況についても座学として知識を得ることができる。自分たちだけでゼロから試行錯誤する必要はなく、先人が辿り着いた地点から、その続きを考えることができる。
爆破FPSの歴史が失われていく
ところが現在、この歴史を知っている人そのものがシーンから少しずついなくなっている。
eスポーツ選手の競技キャリアが短いことは研究でも報告されており、Kang・Kim(2025)は1998年から2023年までの15,021人を分析し、若い世代ほど競技活動期間が短くなっていることを示している。 またSmithiesら(2020)も、eスポーツ選手は短く不安定なキャリアを経験しやすく、引退後のキャリア形成まで含めた問題が存在すると指摘している。
ここから先は、私が日本のeスポーツシーンに関わってきた中での実感になるが、私の周囲でも、長く競技を経験した選手、コーチ、アナリストが次々とシーンを離れてきた。私自身も、自分の人生を前に進めるために一度第一線から離れた人間の一人である。しかし、引退することによって、その人が持っていた知識まで一緒に失われてしまうことを私は危惧し、再びeスポーツシーンへ戻り、自分が持っている2010年以降の歴史的知識を絶やさないよう、なんとか踏ん張っている。
余談で自語りになるが、私はこうした知識のリセットを危惧し、現在は後釜となる人材の育成や、選手・コーチのスカウト、編成などを行い、再現性のある勝利を生み出せるチーム作りに努めている。私は以前、『VCT 2022: Japan Stage 1』でIGZISTのコーチを務め、チームは3位という結果を残した。その後、大学卒業を機にIGZISTを運営する関連会社へ就職し、私自身は競技シーンからフェードアウトしていった。しかし、その後のIGZISTはこの3位を上回る成績を残すことができず、2026年まで長い間、結果が出ない時期が続いた。
そこで2026年シーズンは、かつての勝利を偶然の一度きりで終わらせず、もう一度再現することを一つの目標として、選手・コーチのスカウトから編成に携わった。その結果、『VALORANT Challengers 2026 Japan: Season Finals』では、ようやくチームが3位に入り、私がコーチを務めていた2022年以来、約4年ぶりに同じ順位まで戻ってくることができた。
別に優勝したわけではないので大きな声で言うことはできないのだが、この結果を見たとき、自分がこれまで爆破FPSについて考え、蓄積し、次の世代へ残そうとしてきたことは、やっぱり間違いではなかったんだなと改めて思うことができた。
閑話休題。
例えば、過去に
メタが存在したという事実そのものは、その後から競技シーンを追い始めた人でも知っているだろう。しかし、実際に
メタの中で
がどのような役割を担っていたのか、それに対して相手側はどのような対策を行い、最終的にどのような戦い方で勝っていたのか、そして
が廃れた後、その戦い方がどのように次のメタへ遷移していったのか。こうしたところまで知っている人は、現在ではかなり少ない。
当時の競技シーンを見ていた人間にとっては常識だったことでも、資料として残されなければ、その世代がいなくなった時点で途切れてしまう。過去タイトルからVALORANTへ受け継がれてきた爆破FPSの知識を、世代が変わるたびにリセットする必要はない。
この連載について
そこで、この連載ではVALORANTにおける戦術・戦略のメタの歴史を体系化して残していく。
なぜそのメタが生まれたのか。その戦い方によって何が解決されたのか。相手はどのように対応し、その結果として次に何が生まれたのか。この流れまで残すことで、過去の試合を知らない若い選手、コーチ、アナリストであっても、過去の競技シーンが積み上げてきた様々な「勝ち方」を後から学べるようにしたい。
私一人の知識で全てを網羅できるとも思っていない。当時を知っている人から情報を集め、間違いがあれば訂正し、抜けている部分があれば補完しながら、最終的には爆破FPSに関する集合知として残すことが理想である。
「「「温故知新」」」
過去の勝ち方を知り、その続きを考える。
その一環として、ここではVALORANTの戦術・戦略におけるメタの歴史を述べていく。
参考文献・出典
Kang, J. & Kim, S.(2025)“Game over too soon: early specialization and short careers in esports.” Frontiers in Psychology, 16, 1585599.
Smithies, T. D., Toth, A. J., Conroy, E., Ramsbottom, N., Kowal, M. & Campbell, M. J.(2020)“Life After Esports: A Grand Field Challenge.” Frontiers in Psychology, 11, 883.