VOCALOID 第4世代(精神性のリバイバル)

VOCALOID 第4世代(精神性のリバイバル)

概要

発祥:2013年 日本

全盛期:2016年〜現在

商業化によって大衆路線へと進んだ第3世代 VOCALOID のヒットを経て、シーン全体の熱気は一時的に停滞を見せた。

しかし、2016年に『ゴーストルール』、『エイリアンエイリアン』、『チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!』の3曲がいずれもミリオンヒットを記録したことで、第1世代が持っていた精神性や創作スタイルを再評価する「リバイバル」の動きが生まれる。

さらに2017年には、第1世代の立役者である ryo による『罪の名前』の発表や、初音ミク10周年記念企画の展開により、VOCALOID シーンは再び活気を取り戻すこととなった。

 

影響を受けたジャンル

第2世代で人気を博した「wowaka式」の楽式がしばしば起用されている。

音楽的特徴

楽式

第2世代の影響を色濃く受けたリバイバル傾向が見られ、「wowaka式」の楽式がしばしば採用される。

  • かいりきベア – セイデンキニンゲン (2015.3.31)
  • ナユタン星人 – ロケットサイダー (2015.8.4)
  • ナユタン星人 – ストラトステラ (2015.12.9)
  • かいりきベア – ヒトサマアレルギー (2016.1.30)
  • ナユタン星人 – エイリアンエイリアン (2016.4.5)
  • ナユタン星人 – 惑星ループ (2016.10.26)
  • ナユタン星人 – ダンスロボットダンス (2016.12.6)
  • ポリスピカデリー – キレキャリオン (2016.12.15)
  • ナユタン星人 – 彗星ハネムーン (2017.4.6)
  • Omoi – テオ (2017.7.8)
  • かいりきベア – レミングミング (2017.11.2)
  • かいりきベア – マイナスレッテル (2018.1.16)
  • かいりきベア – バラバラココロ (2018.2.23)
  • かいりきベア – ベノム (2018.8.2)
  • 猫アレルギー – bin (2018.8.14)
  • かいりきベア – テレストテレス (2018.12.21)
  • かいりきベア – ロジカ (2019.2.8)
  • かいりきベア – ルマ (2019.11.23)
  • かいりきベア – ダーリンダンス (2020.8.30)
  • かいりきベア – メンタルチェンソー (2021.4.3)
  • 柊マグネタイト – マーシャル・マキシマイザー (2021.8.21)

 

代表曲

DECO*27 – ゴーストルール feat. 初音ミク (2016.1.8)

DECO*27 – 【初音ミク】ヒバナ【オリジナル曲】(2017.8.4)

『ゴーストルール』は、『マトリョシカ』(2010)以来となる8週連続10万回再生を記録し、さらに『千本桜』(2011)以来となる1年以内300万回再生を達成するなど、衰退傾向にあったVOCALOIDシーンを再興させた。2024年現在、ニコニコ動画におけるVOCALOID楽曲の中で再生数第10位を誇る。また、2021年には1000万回再生を突破し、史上初となる同一Pによる2曲テンミリオンを達成している。

『ヒバナ』は初音ミク10周年記念コンピレーションアルバム『Re:Start』に向けて書き下ろされた楽曲で、2024年現在、ニコニコ動画における VOCALOID 楽曲の中で23番目に再生数が多い楽曲となっている。

『ヒバナ』は、初音ミク10周年記念コンピレーションアルバム『Re:Start』のために書き下ろされた楽曲であり、2024年現在、ニコニコ動画におけるVOCALOID楽曲の中で再生数第23位に位置している。

いずれのMVも第2〜3世代のような高度なアニメーションではなく、第1世代を彷彿とさせる一枚絵を用いており、小規模な制作体制でも評価される土壌を作り出し、楽曲投稿のハードルを大きく下げた点が特徴的である。

 

MARETU – 【初音ミク】 マインドブランド 【オリジナル】(2016.1.10)

MARETU – 【初音ミク】 うみなおし 【オリジナル】(2017.8.25)

『コインロッカーベイビー』(2013.2.2) のサムネイル

MARETUは2011年から活動を開始したコンポーザーで、タイポグラフィ風の文字を組み合わせたモノクロ図形を用いる独自のサムネイルデザインを確立し、視覚的にも一貫したブランドイメージを築いた。そのスタイルは、視聴者に一目で「MARETUの作品」と認識させる効果を持ち、後続のボカロPにもビジュアル戦略の重要性を印象付けた。

『ゴーストルール』発表のわずか2日後に投稿された『マインドブランド』および『うみなおし』は、MARETU自身の尖った作家性とビジュアル・音楽両面のブランディングが相まって、第4世代のVOCALOIDシーンにおいて「作家主義的ブランド構築」を確立する役割を果たした。

 

和田たけあき(くらげP) – チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!(2016.2.23)

和田たけあき(くらげP) – 【音街ウナの】 キライ・キライ・ジガヒダイ!(2016.7.25)

和田たけあき(くらげP)は、漫画調のキャラクターイラストを主体としたビジュアル演出により、音楽体験を視覚面からも強く印象付ける手法を確立したコンポーザーである。そのスタイルは、楽曲の世界観を短時間で直感的に伝える効果を持ち、MVの冒頭数秒で視聴者の記憶に残るブランド性を形成した。

『チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!』はAH-Software社のVOCALOID「結月ゆかり」をボーカルに起用し、殺伐とした学園犯罪劇をテーマにした衝撃的な歌詞と、軽快かつ狂気を帯びたメロディ展開で大きな話題を呼んだ。2016年に100万回再生を達成し、2024年現在も結月ゆかり単体のオリジナル曲として再生数首位を維持している。この成功は、結月ゆかりというキャラクターをより広く認知させ、ボカロ界隈におけるAH-Software製VOCALOIDの存在感を高める契機となった。

『キライ・キライ・ジガヒダイ!』は同社の「音街ウナ」を起用した楽曲で、自己嫌悪と承認欲求の相克をテーマに据えた歌詞が印象的で、2024年現在も音街ウナ単体のオリジナル曲として再生数1位を維持している。このヒットは、音街ウナが持つ声質の魅力を全国的に浸透させるとともに、VOCALOID市場における新規音源キャラクターの定着モデルの一例となった。

両曲は、AH-Software製VOCALOIDの商業的価値を高めるとともに、キャラクターの持つ声質とビジュアルを戦略的に組み合わせることで、音楽コンテンツの訴求力を飛躍的に向上させた事例として歴史的意義を持つ。

 

ryo – 【初音ミク】 罪の名前 (2016.6.10)

ryoは2007年の『メルト』をはじめとする一連のヒット作によってVOCALOID黎明期を牽引した第1世代の象徴的コンポーザーである。『罪の名前』は、彼が前作から約7年半の沈黙を破って発表した楽曲であり、その長い空白期間と絶対的な影響力から「王の帰還」と称された。

発表当時、ニコニコ動画やTwitterでは瞬く間に話題となり、数日で数十万再生を記録。初音ミクのデビューから9年が経過し、ボカロシーンが第3世代から第4世代への移行期を迎えていた中で、この楽曲は黎明期の精神性を現代に再提示する象徴的な出来事となった。結果として、『罪の名前』は単なる復帰作に留まらず、VOCALOID文化の系譜を再び一本の線で結び直す役割を果たした。

 

ナユタン星人 – エイリアンエイリアン / 初音ミク(2016.4.5)

ナユタン星人 – ダンスロボットダンス / 初音ミク (2016.12.6)

『アンドロメダアンドロメダ』(2015.7.1) のサムネイル

ナユタン星人は、単色背景にラフな線画の白色キャラクターを配し、テンポや楽曲のムードに合わせて紙芝居的にイラストが切り替わる独特の映像演出を確立したコンポーザーである。この手法は、制作コストを抑えつつ楽曲の個性を最大化する視覚戦略として、多くの後続Pに模倣されることとなった。

『エイリアンエイリアン』は、2016年に『ゴーストルール』に次いで100万回再生を達成し、第4世代VOCALOIDの発展に大きく寄与した。2024年現在、ニコニコ動画におけるVOCALOID楽曲再生数ランキングで29位に位置している。

『ダンスロボットダンス』は、スマートフォン用オンラインアクション対戦ゲーム「#コンパス 戦闘摂理解析システム」のテーマソングとして制作され、ゲームのプロモーションと並行して人気が拡大。2024年時点で、ニコニコ動画再生数ランキング27位を記録している。

両曲は、第4世代ボカロシーンにおいて、視覚演出と楽曲の一体化によるブランディング手法を広く浸透させた重要作である。

 

wowaka – wowaka『アンノウン・マザーグース』feat. 初音ミク (2017.8.22)

『アンノウン・マザーグース』は、第1世代の立役者であり、『裏表ラバーズ』や『ローリンガール』で第2世代以降の音楽性にも多大な影響を与えたwowakaが、初音ミク10周年記念コンピレーションアルバム『Re:Start』に向けて書き下ろした楽曲である。彼が2019年に急逝したことから、本作は事実上の遺作としても広く知られることになった。

2023年には本作が1000万回再生を達成し、wowakaは史上初となる同一Pによる4曲テンミリオン(『裏表ラバーズ』『ローリンガール』『ワールズエンド・ダンスホール』『アンノウン・マザーグース』)を達成した。2024年現在、ニコニコ動画におけるVOCALOID楽曲再生数ランキングで7位に位置しており、その影響力と人気は衰えていない。

 

かいりきベア – ベノム / flower (2018.8.2)

かいりきベア – アンヘル / 鳴花ミコト (2019.3.30)

『セイデンキニンゲン』(2015.4.10) のサムネイル

かいりきベアは、ナユタン星人と並び第4世代のVOCALOID制作スタイルを確立させた代表的コンポーザーであり、特にイラストレーター”のん”とのタッグによる単色背景とモノトーン調キャラクターを用いたサムネイルデザインが象徴的である。このビジュアル手法は、視認性の高さとブランド認知を同時に実現し、第4世代におけるMV演出の一つの定型として浸透した。

『ベノム』は、投稿から短期間で爆発的な再生数を獲得し、2024年現在、ニコニコ動画におけるflower起用曲として歴代最多再生を記録。さらにVOCALOID楽曲全体の再生数ランキングでも24位に位置し、flowerの人気確立に大きく貢献した。『アンヘル』は、AHS社のVOCALOID「鳴花ミコト」を起用した初の大規模ヒット曲として知られる。疾走感あるロックサウンドと、鳴花ミコト特有の鋭い発声が噛み合い、既存の主流音源とは異なるキャラクター性を前面に押し出すことに成功した。ニコニコ動画・YouTube双方で高い評価を獲得し、鳴花ミコトの認知度を一気に拡大させた点で歴史的意義を持つ。

両曲は、それぞれ異なるボイスバンクの魅力を最大限に引き出し、キャラクターと楽曲世界観を強固に結びつけるモデルケースとなった。さらに、ビジュアルとサウンドの統一的ブランディングによって、ボカロ楽曲のヒット構造における“音源選択戦略”の重要性を広く浸透させた。この成果を踏まえ、かいりきベアは特定のVOCALOIDにとどまらず、さまざまなアーティストやキャラクターへの楽曲提供を行い、それぞれの声質やキャラクター性を最大限に引き出すアレンジ・作曲を行ってきた。これにより、単なる作曲家にとどまらず「アーティストの個性を楽曲で可視化する」プロデューサー的役割も担い、第1世代の精神性を踏襲しながら各キャラクターのブランディング強化に寄与している。

加えて、かいりきベアはビジュアルや音源戦略のみならず、第2世代の代表的作家であるwowakaが確立した「wowaka」式の楽曲構造・展開手法を積極的に取り入れる継承者でもある。これにより、ナユタン星人と併せて世代をまたいだ音楽的文脈の継承がなされ、ボカロ文化全体の系譜的連続性を強化した。

     

    原口沙輔 – 人マニア – 重音テト (2023.8.8)

    『人マニア』は、オープンソースの歌声合成ソフトウェア「UTAU」の代表的キャラクターである重音テトをボーカリストに起用した楽曲であり、2024年時点で重音テト単体のオリジナル曲としては史上最多再生数を記録している。UTAUは商用VOCALOIDに比べ個人制作色が強く、特にテトは「エイプリルフール発祥の非公式キャラクター」という出自から、ファン主導の草の根的文化が長年築かれてきた。その中で本作は、楽曲の完成度とプロモーション戦略により、UTAU発の作品としては異例の広範なリスナー層への波及に成功した。

    発表当時、YouTubeやニコニコ動画を中心に急速に再生数を伸ばし、SNSでの二次創作や歌ってみた投稿も活発化。これにより重音テトは再び注目を浴び、UTAUシーン全体の活性化にも寄与した。さらに、この成功は重音テトが後年「大覇権」と呼ばれるほどの人気と影響力を得るための決定的な足がかりとなり、UTAU文化から合成音声全体への影響力拡大に直結した。結果として、『人マニア』は重音テト文化の集大成であると同時に、その後の躍進を導いた歴史的転機の作品となった。

     

    Yukopi – 強風オールバック (feat.歌愛ユキ) (2023.3.15)

    『強風オールバック』は、AHS社が提供するVOCALOID「歌愛ユキ」をボーカリストに起用した楽曲で、2024年現在、YouTubeにおけるVOCALOID楽曲の中で第4位という異例の再生数を記録している。発表直後からその中毒性の高いメロディと軽妙な歌詞、そしてコミカルな振付を伴ったMVがSNSを中心に爆発的に拡散し、TikTokでのダンス動画やパロディ作品を巻き込んだ二次創作ムーブメントを形成した。

    本作は従来、知名度が限定的だった歌愛ユキに一躍スポットライトを当て、キャラクターイメージを一新するとともに、Z世代を中心とした新規リスナー層の開拓に成功した点で特筆される。また、短尺動画プラットフォームを起点に音楽がバイラル化する流れをVOCALOIDシーンに本格的に導入した作品でもあり、従来のニコニコ動画やYouTube長尺MV中心の拡散モデルを刷新した。結果として、『強風オールバック』は歌愛ユキの存在感を決定的に高めると同時に、第5世代以降のVOCALOIDプロモーション手法に大きな影響を与えた歴史的転換点となった。

     

    派生したジャンル

    影響を与えたジャンル

    脚注