Concepted VOCALOID

Concepted VOCALOID

概要

発祥:2008年 日本

全盛期:2011年〜2014年

2007年12月27日、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社から「初音ミク」に続くVOCALOID製品として「鏡音リン・レン」が発売された。翌2008年には、この2人をボーカリストに起用した「鏡音三大悲劇」と呼ばれる一連の楽曲群が発表され、高い評価を得る。

2009年、『ワンダーラスト』の登場により、コンセプト・アルバムの影響を受けた「シリーズもの」や「プロジェクト系」と呼ばれる新たなVOCALOID表現手法が確立される。これにより、単発の楽曲ではなく、複数曲を通して物語や世界観を構築するスタイルが広く浸透していった。

2011年には、マルチメディア・プロジェクト「カゲロウプロジェクト」が始動。2012年にはコンセプト・アルバム『メカクシティデイズ』、2013年には続編アルバム『メカクシティレコーズ』が制作され、2014年にはテレビアニメ『メカクシティアクターズ』が放送された。これらの成功により、Concepted VOCALOIDは確固たる人気ジャンルとして地位を確立した。

 

影響を受けたジャンル

 

音楽的特徴

プログレッシブ・ロックやサイケデリック・ロックに見られる手法の影響を受け、複数の楽曲を通してひとつの関連した作品として構築する傾向が強い。これにより、単曲ごとの完成度だけでなく、アルバムやシリーズ全体で物語やテーマを描く表現が重視される。

 

代表曲

mothy – 【鏡音リン】 悪ノ娘 【中世物語風オリジナル】(2008.4.6)

mothy – 【鏡音レン】悪ノ召使【中世物語風オリジナル】(2008.4.29)

mothy – 【鏡音レン】master of the heavenly yard【鏡音リン】(2018.2.28)

mothy(悪ノP)は、Concepted VOCALOIDを代表するコンポーザーの一人であり、『悪ノ娘』と『悪ノ召使』では、鏡音リンと鏡音レンをそれぞれ主役に据え、互いの視点から語られる裏表のストーリーを構築した。このペア楽曲は、楽曲同士の物語的連関というConcepted VOCALOIDの魅力を広く知らしめ、シリーズ物楽曲の人気を大きく押し上げた。

『悪ノ娘』を含むmothyによる8作品は、通称「七つの大罪シリーズ」と呼ばれる物語世界を形成している。その最終作として2018年に発表された『master of the heavenly yard』は、全12章・約15分にも及ぶ大作で、複雑な物語構成と多彩な楽曲展開を内包する集大成的作品として高く評価された。

これらの作品群は、VOCALOIDを単なる歌唱ツールとしてではなく、物語世界を音楽で描くメディアとして確立させるうえで大きな役割を果たし、Concepted VOCALOIDの文化的基盤を形成した歴史的シリーズとして位置づけられている。

 

囚人P – 【鏡音レン】囚人 オリジナル 【コラボPV.ver】 前後史曲リンク有 (2008.11.1)

ひとしずくP – 【鏡音レン】soundless voice 【オリジナル】(2008.10.19)

『悪ノ娘』『悪ノ召使』に続き発表された、囚人Pの『囚人』とそのアンサーソング『紙飛行機』(2008年)、ひとしずくPの『soundless voice』とアンサーソング『proof of life』(2008年)を含む6曲は、「鏡音三大悲劇」と総称される。これらの楽曲は、鏡音リン・レンのキャラクターを主役とし、物語性を前面に押し出した作風によって高い評価を受けた。

「鏡音三大悲劇」は、複数の曲を相互にリンクさせ、前後の時間軸や異なる視点から物語を描く手法を採用しており、VOCALOID文化におけるストーリーテリングの重要性を確立した歴史的作品群である。

 

sasakure.UK – 【巡音ルカオリジナル曲】ワンダーラスト【PV】(2009.2.2)

sasakure.UK – ボーカロイドは終末鳥の夢を見るか? (2010.3)

『ワンダーラスト』は、ボーカリストにクリプトン・フューチャー・メディア社の「巡音ルカ」を起用し、その発売からわずか3日後というタイミングで発表された。壮大かつ叙情的なメロディに、退廃と希望が交錯する歌詞を乗せた本作は、巡音ルカの表現力を印象づけると同時に、物語性を重視したVOCALOID楽曲の可能性を広く知らしめた。

この『ワンダーラスト』を含むsasakure.UKによる作品は、いずれも「終末の世界」をテーマに制作されており、その世界観は統一感をもって展開されている。後年リリースされた『ボーカロイドは終末鳥の夢を見るか?』は、VOCALOIDのために制作された最初期のコンセプト・アルバムのひとつであり、Concepted VOCALOIDの歴史において極めて重要な位置を占める作品となった。

本アルバムは、曲間や歌詞のモチーフに相互関連を持たせることで一貫した物語世界を構築し、単曲消費が主流だった当時のVOCALOIDシーンに「アルバムで世界観を体験する」という新しい聴取スタイルを提示した点でも評価されている。

 

cosMo(暴走P)- 初音ミクの消失 (2010.08)

第1世代を代表するコンポーザー、cosMo(暴走P)による1stアルバム『初音ミクの消失』は、初音ミクの誕生から消失までを一貫したテーマで描き出したコンセプト・アルバムである。アルバム全体を通して、機械としての存在と人格的感情の間で揺れ動く初音ミクの姿が描かれ、楽曲間の物語的連関によって強固な世界観が構築されている。

本作は、sasakure.UKの『ボーカロイドは終末鳥の夢を見るか?』と並び、Concepted VOCALOIDを語るうえで欠かせない重要作とされる。高速歌唱を駆使した表題曲「初音ミクの消失(LONG VERSION)」をはじめ、技巧的な作曲・編曲と高度な調声技術が随所に盛り込まれ、当時のVOCALOID制作の技術的到達点のひとつを示す作品でもあった。

その構成力と完成度の高さは、単なる楽曲集ではなく、物語を持った音楽作品としてのVOCALOIDアルバム制作の在り方を提示し、後続のコンセプト志向作品に大きな影響を与えた。

 

じん(自然の敵P) – 【初音ミク】カゲロウデイズ【オリジナルPV】(2011.9.30)

じん(自然の敵P) – メカクシティデイズ (2012.5)

じん(自然の敵P) – メカクシティレコーズ (2013.5)

じん(自然の敵P)によって制作された一連の楽曲群は「カゲロウプロジェクト」と総称され、約2年7か月にわたりおよそ25作品が制作された、VOCALOID史上でも最大規模のマルチメディアプロジェクトとして知られる。音楽作品のみならず、小説化・漫画化・テレビアニメ化(『メカクシティアクターズ』)など、多角的なメディア展開を行い、Concepted VOCALOIDの代表例として高い知名度を誇る。

プロジェクト全体のコンセプトは「目」にまつわる特殊能力であり、楽曲ごとに異なる登場人物の視点から物語が描かれる群像劇的構成が特徴。複雑な時間軸や人物関係を楽曲間で補完し合う構造は、リスナーに物語を追う楽しみを提供すると同時に、シリーズ全体への没入感を高めた。

シリーズの代表曲『カゲロウデイズ』は、疾走感のあるバンドサウンドと夏の情景を軸にした叙情的な歌詞で人気を集め、2024年現在、ニコニコ動画におけるVOCALOID楽曲再生数ランキングで第29位に位置している。これらの楽曲群は、VOCALOIDを用いた長期的かつ大規模なプロジェクトの成功例として、後続のクリエイターに大きな影響を与えた。

 

じん ft. メイリア from GARNiDELiA -【MV】daze【Lyrics Ver.】(2014.5)

じん -【MV】 days【オリジナル】(2014.6)

『daze』はテレビアニメ『メカクシティアクターズ』のオープニングテーマとして制作され、メインボーカルにGARNiDELiAのメイリアを迎えた作品である。疾走感のあるロックサウンドに、カゲロウプロジェクトの物語世界を象徴するフレーズを織り込み、アニメの幕開けを強く印象づける楽曲となった。一方、『days』は同アニメのエンディングテーマとして制作され、VOCALOID「IA」の声優を務める歌手Liaがボーカルを担当し、アニメとVOCALOID文化とのつながりを象徴する起用となった。両曲はそれぞれ作品の始まりと終わりを彩り、アニメ版カゲロウプロジェクトの映像演出とともに、音楽面からも世界観の統一性を高める役割を果たした。

これらの楽曲は、VOCALOID発のConcepted作品がテレビアニメ主題歌として商業的に展開された事例としても重要であり、メディアミックス戦略の成功例として後年のプロジェクト型楽曲制作にも影響を与えた。

 

うたたP – 【初音ミク】こちら、幸福安心委員会です。【オリジナル】(2012.6.15)

『こちら、幸福安心委員会です。』は、うたたPによる全8曲から成る「幸福シリーズ」の中核をなす楽曲であり、シリーズ全体のコンセプトである「幸福」というテーマを独自の世界観で描き出している。物語性のある歌詞と、初音ミクの透明感あるボーカルを生かしたメロディが特徴で、軽快なリズムとポップなサウンドの裏に潜むシニカルなメッセージ性が、多くのリスナーに強い印象を与えた。

「幸福シリーズ」は、各楽曲が個別の物語を持ちながらも共通のテーマで結びつけられており、Concepted VOCALOIDの手法を活かした連作形式の好例とされる。特に本作は、キャッチーなフレーズと覚えやすいメロディによりニコニコ動画内で広く拡散され、シリーズ全体の知名度向上にも大きく貢献した。

 

れるりり – 【初音ミク&GUMI】脳漿炸裂ガール【オリジナル】(2012.10.19)

れるりり – 地獄型人間動物園 (2013.11)

『脳漿炸裂ガール』は、BPM155のテンポに乗せた16分音符主体の高速歌詞、露骨な性的表現、そして「wowaka式」と呼ばれる「リフ|A|リフ|A|B|C」の楽式構造を取り入れた楽曲であり、第1世代VOCALOIDの持つ「ボカロらしさ」を色濃く反映した作品である。初音ミクとGUMIのデュエットによる掛け合いが疾走感と緊張感を生み、過激かつキャッチーな歌詞と共に強烈なインパクトを残した。

本作は、ニコニコ動画におけるVOCALOID楽曲再生数で16位、YouTubeにおけるVOCALOID楽曲再生数で10位を記録しており、国内外で非常に高い知名度を誇る。

また、2013年11月にリリースされたコンピレーション・アルバム『地獄型人間動物園』には、れるりりを含む11人のボカロPが参加し、心の闇を抱えた現代の少女たちをテーマにした全13曲が収録された。『脳漿炸裂ガール』はその中でも象徴的な存在として位置づけられ、アルバム全体の方向性やコンセプト形成にも大きく寄与している。

 

Last Note. – 【GUMI】放課後ストライド【オリジナル】(2012.12.1)

Last Note. – ミカグラ学園組曲 (2015.2)

『放課後ストライド』は、コンポーザーLast Note.による連作楽曲群「ミカグラ学園組曲」の第1作として発表された。軽快なロックサウンドと青春感あふれる歌詞を特徴とし、GUMIの明るく伸びやかな歌声と疾走感のあるバンドアレンジが、学園を舞台とした物語の幕開けを鮮やかに飾っている。

「ミカグラ学園組曲」は全11曲で構成され、楽曲間で共通する登場人物や舞台設定を通して一貫した世界観を描き出す連作プロジェクトである。その物語性とキャラクター性の高さから、Concepted VOCALOIDの成功例として評価され、「カゲロウプロジェクト」に続く形で小説化・コミカライズ化・テレビアニメ化といったメディアミックス展開が行われた。

本プロジェクトは、音楽作品を起点として他メディアへと展開するVOCALOID発のクロスメディア戦略の一例としても重要であり、ファン層の拡大とコミュニティの活性化に寄与した。

 

派生したジャンル

影響を与えたジャンル