【反証】ハードロックとメタルの違い

はじめに

アンボと申します。
普段は作曲をしていますが、最近は出来ていないので、普段は作曲していません。

 今回は、世間に溢れている「メタル論(あれはメタルでこれはメタルではないという議論)」というものはいかに曖昧なのか、先行研究に反証を交えながら意見を述べていきます。

 先日、「HRとHMの違い」というサイトを発見しました。辞書による定義や一般的な常識と著者自身の経験を照らし合わせながら、帰納的に持論を展開しており、内容も濃いものとなっています。
しかし、ちょうど私と意見が相反していたので、今回はこのサイトの言葉を借りて反証を述べたいと思います。

HRとHMの違い(最終アクセス:2019年6月12日)

 

「[1] リズムの持つニュアンスの違い」より抜粋

基本的にブルース/R&Rというロックのルーツから直接的な系譜上にあるハード・ロックのリズムは、黒人的なタメのきいた8ビート(極言すれば横ノリ)が基本だが、ヘヴィ・メタルの場合よりスクエアで硬質な、重量感を強調したリズム(極言すればタテノリ)が刻まれる。

https://hatenablog-parts.com/embed?url=http%3A%2F%2Fwww.metalgate.jp%2FC_diffarence.htmwww.metalgate.jp

このカテゴライズは帰納的ではない、もとい意味を成してないと言えるでしょう。

 

ロックにおける「横ノリ」とは簡単に言うと、古典ブルース/ジャズに影響を受けてるリズムです。具体例を挙げると、

  • シンコペーション
  • シャッフルビート

等が挙げられます。

 

また、ノリ自体に関係してくるかは断言できませんが、

  • ハーフテンポ(半分のBPMの8ビート)
  • ラグライム(本来の意味の裏打ちではなく、ズレたリズムの意)

等も、古典ブルース/ジャズ由来のリズムと言えます。

 

「縦ノリ」は「横ノリ」の逆で、横に当てはまらなければ縦と考えれば分かりやすいでしょうか。
何の脚色もないストレートなリズムが縦です。

 

以下に、一般的にハードロックと呼ばれているバンドの中から、「横ノリ」が特に印象的な曲を挙げました。「横ノリ」が具体的に分からない人は、聞いて実感してください。

シンコペーション
・Deep Purple – Highway Star (1972)
・UFO – Rock Bottom (1974)
・Budgie – Breaking All The House Rules (1975)
・Thin Lizzy – The Boys Are Back In Town (1976)
・Rainbow – Kill The King (1978)
・Black Sabbath – Die Young (1980)
・Diamond Head – Lightning To The Nations (1980)
・Alcatrazz – Hiroshima Mon Amour (1983)
・Def Leppard – Photograph (1983)
・Bon Jovi – Runaway (1984)
・Bon Jovi – Livin’ on a Prayer (1986)
・Guns N’ Roses – Think About You (1987)
・Guns N’ Roses – Sweet Child O’ Mine (1987)

シャッフルビート
・Budgie – In For The Kill (1974)
・Rainbow – Run with the Wolf (1976)
・Thin Lizzy – The Boys Are Back In Town (1976)
・Rainbow – Long Live Rock ‘n’ Roll (1978)
・Journey – La Do Da (1978)
・Toto – Child’s Anthem (1978)
・Diamond Head – Lightning To The Nations (1980)
・Toto – Rosanna (1982)
・Van Halen – Hot For Teacher (1984)
・Guns N’ Roses – 14 Years (1991)

ハーフテンポ
・Black Sabbath – War Pigs (1970)
・UFO – Mother Mary (1975)
・Rainbow – Stargazer (1976)
・Journey – Feeling That Way (1978)
・Black Sabbath – Heaven And Hell (1980)
・Diamond Head – Lightning To The Nations (1980)
・Guns N’ Roses – It’s So Easy (1987)

ラグライム
・Rainbow – A Light in the Black (1976)
・Toto – Child’s Anthem (1978)
・Toto – I’ll Supply The Love (1978)
・Toto – Hydra (1979)
・AC/DC – Back In Black (1980)
・Whitesnake – Still Of The Night (1987)
・Whitesnake – Crying In The Rain (1987)

 

特に以下の楽曲は様々なリズムを聞くことができ、まるで「横ノリ」のデパートだと形容することができます。

・Thin Lizzy – The Boys Are Back In Town (1976)

メタル豆知識:デパート”Thin Lizzy”は深夜2時まで営業してる。

 

・Toto – Child’s Anthem (1978)

メタル豆知識:TOTOの企業スローガンは、「あしたを、ちがう『まいにち』に。」

 

・Diamond Head – Lightning To The Nations (1980)

メタル豆知識:NWOBHMムーブメントから登場したバンドの一つ。商業的な成功を収められず解散したが、メタリカやメガデスらに影響を与えていた事で再評価が高まり、1990年代に再結成を果たした。

(出展:ダイアモンド・ヘッド (バンド) – Wikipedia 最終アクセス:2019年6月12日)

以上の例を見るからに、「横ノリ」のリズムがいかにハードロックにおいて多く使われているか理解できるでしょうか。
特にシンコペーションは取り分け多く見ることができ、ハードロックのスタンダードとも言うことができます。

 

では次に、以下に挙げるシンコペーションの楽曲はハードロック的なのか、考えてください。

・Judas Priest – Exciter (1978)
・Judas Priest – Running Wild (1978)
・Iron Maiden – The Number Of The Beast (1982)
・Judas Priest – Electric Eye (1982)
・Dio – Stand Up And Shout (1983)
・Iron Maiden – The Trooper (1983)
・Iron Maiden – 2 Minutes To Midnight (1984)
・Anthrax – Caught In A Mosh (1986)
・Megadeth – Wake Up Dead (1986)
・Queensrÿche – Revolution Calling (1988)
・Mötley Crüe – Dr. Feelgood (1989)
・Mötley Crüe – Kickstart My Heart (1989)
・Metallica – Enter Sandman (1991)

ノリが「横」か「縦」を基準とする場合、以上のような楽曲、もといバンドはハードロック的であるとカテゴライズされることになります。
それで良いと「HRとHMの違い」の著者が言うならそれで良いのですが、著者は持論の中で一般常識や共同認識といった概念を持ち出しており、例えば「Iron Maiden はハードロックである」といった突飛な論理は導き出すことができません。
よって、この基準は破綻していると言えるでしょう。

また、1990年を越えると「横ノリ」の手法はHR/HMに関わらず広く使われるようになり、リズムによる分類はいよいよナンセンスになってきます。

 

「[2] ギターの「刻み」の量の違い」より抜粋

ハード・ロックにおいては、リズムに合わせてコードを鳴らしているような場面で、ヘヴィ・メタルの楽曲の多くは8分、もしくは16分でギターがリズムを刻んでいることが多い。(中略)ハード・ロックに比べヘヴィ・メタルは細かい刻みがザクザクと入って隙間が少ない。こうしてギターがリズムを刻むことでサウンドに隙間がなくなり、サウンド全体の音圧が増す。この音圧こそが「ヘヴィ・メタルっぽさ」であると考える。

https://hatenablog-parts.com/embed?url=http%3A%2F%2Fwww.metalgate.jp%2FC_diffarence.htmwww.metalgate.jp

メタルにおいて開放弦の刻みは頻繁に見られるので、この基準には賛同したくなります。
しかし、刻みというのは当時のハードロックやパンクにおいても広く使われるため、メタルだけの特徴ではありません。

 

刻みの量をHR/HMの違いとして見なすのがそもそも不適切であると言えますが、それを踏まえた上で、以下の楽曲は「ザクザクとしたヘヴィメタル」であるのか、考えてください。

・Judas Priest – Metal Gods (1980)
・Ozzy Osbourne – Mr. Crowley (1980)
・Quiet Riot – Metal Health (1983)
・Iron Maiden – Aces High (1984)
・Helloween – I Want Out (1988)
・Queensrÿche – Operation: Mindcrime (1988)
・Judas Priest – Heavy Metal (1988)
・Megadeth – Countdown To Extinction (1992)

 

「[1] リズムの持つニュアンスの違い」の反証と同様に、一般常識や共同認識によると上述のバンド・楽曲はハードロックであると見なされるため、論として不十分です。

またこの論も同様に、90年代に入るとグルーブメタルが台頭して休符が目立つようになるため、刻みの量による分類はいよいよナンセンスになってきます。

そもそもグルーブメタルは「モダン・ヘヴィネス」と見なして「メタルではない」と主張される方々の存在は認知しております。
しかし現代ではその主張も一般常識や共同認識から乖離しているかと思います。
今の10代の子というのは Slipknot が正統派メタルとして聞いて育ってきた世代(2016年大阪心斎橋 三角公園調べ)なので、よりフラットに、より音楽的な議論をする必要があります。

 

まとめ Metallica の例

このように、一見するとそれっぽく言っているようなメタル論でも、詳しく見てみれば穴は存在します。
この方も同サイトにて指摘されてるように、世間に溢れてるメタル論のほとんどはかなり適当です。

 

一般的に、ヘヴィメタルはハードロックから進化した(=影響を受けた)ものであると言われていますが、どういった音楽的要素が影響を受けたのか具体的に述べられる人はほとんどいません。

例えば先ほどのリズムのように、「ハード・ロックのリズムは、黒人的なタメのきいた8ビート(極言すれば横ノリ)が基本」とは言いつつも、筆者が「横ノリ」が具体的に分からず、伝聞した情報を理解しないまま持論とした結果、穴が空いてしまうことがよくあります。

現在のメタル論はそれの積み重ねで完成させられてしまったのではないでしょうか。

 

では何を考えると、より穴が小さく本質的なものに近付くのか。それは「何から」「どのような」影響を受けたのかを考えることです。
もっと具体的に言い変えると、「ルーツは何か」「どこから着想を得たのか」を紐解くことです。

例えば、シンコペーションが半ば当たり前だった1980年代のHR/HMシーンで、突如登場した”Metallica”はシンコペーションを全く使いませんでした。
初めてシンコペーションを軸に曲作りをしたのは『Enter Sandman』が初めてではないでしょうか。

こから察するに、Metallica のルーツは明らかにハードロックやNWOBHMではありません。
The Beatles 等のオールドロック/ガレージロックに影響されたジャンルである、パンクの直系でしょう

また Metallica は一般的に Diamond Head からも大きく影響を受けたとされていますが、先述のように Diamond Head は「横ノリ」のデパートなので、本当にこのバンドから影響を受けているなら、単純なシンコペーションを使わないのは非常におかしいです。

私は作曲が出来る立場なので知っていることがありますが、それは「好きな音楽」と「作曲において影響を受けた音楽(ルーツ)」は全く違うということです。
そして出来上がった楽曲は「ルーツ」を軸とした「好きな音楽」のジャンルになります。

初期の Metallica は「過激なNWOBHM」と形容されたこともあったように、ジャンルはNWOBHMに似せた形ですが、その音楽的なルーツはパンクです。
つまり、 Metallica の音楽性はハードロックから進化したものではありません!
よって、私は「ヘヴィメタルはハードロックから進化した」という一般的なメタル論は偽であると主張します!

そもそも私がなぜ Metallica がスラッシュメタルではなくヘヴィメタルとして扱っているのか、その理由はここに書いています。未読の方は読みなさい(強制)


このように、ルーツを辿っていけば一般的なメタル論とはまた違った結論が導き出せます。

ただし、これだけだと音楽的な要素を言語的に説明するには不完全で、もっと楽曲を細切れにして分析しなければいけません。
それを具体的に解明するのが、私が生涯をかけて連載することを予定している「メタル楽式論」です。
死ぬまで絶対メタルについて想い焦がれるからな。覚悟しとけよ、ロブ・ハルフォード、ジェームズ・ヘットフィールド、サウル・ハドソン。長生きしろよ。

いつか暇になれば、この「メタル楽式論」について詳しく述べていきたいと思います。
いつになるかは分からん。
ワシに5,000兆円貢いでくれて、一生音楽聴いててもいい環境にぶち込んでくれるなら666日で書く。


事実の誤認、誤表記、意見などありましたら、是非コメントお願い致します。
貴方の感想が、この主張をさらに発展させます。

もはやこれまで。

 

いつもの(2019年6月13日追記)

これやるの忘れてた。いつものやつ。

・Ambox Ambo – Everlasting Run (2018)

この曲ですが、実は Metallica から多大な影響を受けています。
リフワークから曲の構成まで、パク…ってるわけではないですが、かなり参考にしていました。

ただそれでも「メタルかね」と言われるのは、やはり表面的な部分(初音ミクが歌ってるとか、シンセがよく鳴ってるとか)しか見られていない証拠でしょう。

最後に、作るにあたって参考にしたバンドを正直に全部吐いて、この記事を終わりにしたいと思います。 

リフ
・Metallica
・Megadeth
・Exodus
・Iron Maiden
・Gamma Ray

曲の構成
・Metallica
・Anthrax
・Pantera

リズム
・Metallica
・Anthrax
・Iron Maiden
・Guns N’ Roses

単純な疑問ですけど、あなたはこの曲、本当にメタルじゃないって思いますか?
私はこれでもかと言うほどメタリックな要素を詰めたと思うのですが。

感想お待ちしています。

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